性被害当事者を性消費する

コラム

治療と称して性被害体験を性消費される

宮台真司氏は、「援助交際」をする少女のうち、アダルトチルドレンの少女をAC系・自傷系と呼んでいました。少女たちの治療は考えず、彼女らは「自意識の病」であり「オヤジから見て理解可能」だから、「比較的無害」と片付けています。
(『論座』1998年8月号上野千鶴子との対談p150)

そればかりか、性被害当事者に対する性行為での「治療」行為をほのめかしてもいます。

宮台真司、二村ヒトシ著『どうすれば愛しあえるの?幸せな性愛のヒント』(ワニの本2017年)

「メンヘラ」と一蹴するのでしょうか。
精神疾患の症状を持つ女性や、性被害の体験を持つ女性たちは、AVの世界に数多く登場します。

『「絶望の時代」の希望の恋愛学』 宮台真司/編著2013年(p175~p176)より

宮台
 いちばん有名なアダルトビデオ監督と言えば代々木忠(通称ヨヨチュー)です。彼が1992年に『プラトニック・アニマル』という名著を書きます。そこで性的な被害体験がある女の子に男がどう対処すべきなのかをアドバイスしています※。これは僕が実践してきたことと似ていました。
性的被害体験のある女性は、被害体験が心の中で膨らみ、「被害体験に比べて自分が小さい状態」にあります。この場合、セックスの最中、彼女が<変性意識状態>に入っている間に性的被害体験の再現を試みます。目的は「被害体験よりも自分を大きくすること」。
 それ自体は僕も経験があるのですが、加えて代々木監督は際現に際して面白いやり方をします。英語文献で知識を得たらしいんですが、別の女性に「性的被害を受けたときの自分と同じ格好」をさせ、性的被害を受けた女性には自分を犯した男と同じ格好をさせます。
(中略)
 これが実際にビデオ映像として記録されていますが、すごい治療効果を発揮したんです。僕の経験はここまで凝ったやり方ではなく、言葉を使って「男の目からかつてのキミがどう見えていたのか」を性的興奮の最中に想像させるだけでしたが、それでも効果的でした。
経験を通じて、「被害体験よりも自分を大きくすること」に成功するわけですね。そのことによって、被害体験女性が過去の体験から、一気に解放されることにつながるんですよ。

※代々木忠氏の書籍『プラトニック・アニマル』幻冬舎版には該当する記述見つからず。
(退行催眠で性被害のトラウマがよみがえり自分を許していないことに気づいた女優の話は出てくる。)

AV作品に登場する女性は、解離症状を起こしていたり、
佐々木忠氏が『プラトニック・アニマル』で打ち明けたように、多重人格の状態であったり、
境界性パーソナリティー障害と診断されていたり、
精神疾患の症状のある人が多くいることが指摘されています。
そのなかには、性被害のトラウマを持つことを打ち明けている女性が少なくありません。

性被害の治療はトラウマの再演を続けることでも、AV出演したり性搾取に利用されることでも、性行為そのものでもありません。性被害のトラウマを克服しようとして、さらに屈辱的な扱いを受けてトラウマ体験を重ねたケースもあります。

過去の性体験を聞かれ、性被害の体験を再現させられる

性被害当事者や性被害事件を性消費したがる変質者がいるということは以前お話ししましたが、
AVにも性被害をモチーフにした作品が多くあり、その多くであり人気が高いのは「最初は嫌がっていたがそのうち気持ちよくなって受け入れ和姦になった」という荒唐無稽かつ被害者にとって侮辱的な酷いストーリーです。

こんなストーリーのAV作品があるだけでも、性被害当事者への酷い侮辱ですが、惨い侮辱はそれだけではありません。

AV出演にあたって、出演女優に過去の性体験を聞かれることが多いようです。それはインタビューとして動画に含まれていることもあります。
過去の性体験として性被害を打ち明けたところ、そこから「性暴力によって性の悦びに目覚めた」といったストーリーを作られて、性消費される…こんなことが多く事案に挙げられています。

性被害当事者たちの、性化行動やトラウマの再演を利用する。
性被害当事者とわかったうえで、性消費し、搾取してきたのが、業界です。

「AV出演は性的搾取」気付くまでに何年もかかった。“生きるため”に契約する女性たち、新法案で被害救済できるのか(47NEWS2022年)

>すぐにAV監督の面接に連れて行かれた。過去の性体験を聞かれた時、就職して間もない頃に遭った性暴力の記憶がよみがえった。
>宴会で取引先の男性に出された飲み物を口にし、気がつくと男性とホテルにいた。撮られた裸の写真を口実に1年間、関係を強いられ続けた。その経験を話すと「薬を飲まされた後にホテルでレイプされる役」での出演が決まった。
>性暴力に心の傷を抱えていたが、前向きに捉えようとした。「AVに出れば、あの時のことを大したことないと思えるんじゃないかって。これで被害を乗り越えられる」。過去を再演することで、克服できるかもしれないと撮影に臨んだ。
>その後の1年間で十数本に出演した。ただ、求められる演技内容は次第にエスカレート。「排せつ行為を見せて」「50人にレイプされるから」と演技の要求は過激になっていった。
>撮影には毎回、酒を飲んでから向かった。つらさを紛らわせないとカメラの前に立てなかった。そのうち、記憶が飛ぶようになった。病院で検査を受けると、脳が萎縮していると判明。医師から「相当なストレスがかかっていますね」と言われた。契約した事務所からは、整形や売春を勧められるようになっていた。「ここでやめないと大変なことになる」。心も体も限界だった。

郡司真子氏のニュースレター「キラキラが痛くてたまらない」より

キラキラが痛くてたまらない
単体専属女優として、1年で約二千万稼いで辞めたAV女優の告白です。元AV女優キャリア売りで生き延びたくなかった。出演を絶対に勧めない。彼女は、たまたま地獄から救ってくれる人に出会えた。現場から抜け出せず、命を失った女の子たちもいる。早く性搾...

>AVデビューシリーズは、モデル界で起きた性暴力を再現するという内容の台本だ。シナリオは当日渡された。性行為の具体的詳細は記されておらず、その場でエスカレートしたが、何一つ拒否できず、されるがままになった。
>れいさんのデビュー10本シリーズは、モデル界で数々の暴力から性の悦びに目覚め、性の表現者になっていくという酷い展開だった。しかしながら、実は、台本通り、れいさんは幼少期から性暴力に遭い続けたことから、性化行動を起こしてきた。傷付いてきたはずなのに、更に自ら傷つきを重ねることを望む性的自傷トラウマの再演である。

性被害の体験を語らせられるばかりか、「性被害を受けたが気持ちよくなった」「性被害から性の悦びに目覚めた」という歪曲をされたうえ、再演をさせられる…。
性被害当事者にとってあまりに酷い搾取ですが、視聴者は、これをどこまで現実だと思うのでしょうか?

もしご自身に思いがけない不幸が降りかかり、思い出しても手が震え身体がこわばるような人生で一番つらい事件が起きたとき、自業自得だとかその被害を悦んでいるのだと一方的に曲解され、傷をえぐるように再現させられ、一番深い心の傷を性的消費されたとき、あなたはいったいどう感じるでしょう。

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